「よいこ」像の変遷に「中の人」を思う。

よいこの文化大革命―紅小兵の世界 (広済堂ライブラリー)

武田雅哉、『よいこの文化大革命』、廣済堂出版、2003年

 現在、「中国宏観経済与改革走勢座談会紀要」なんぞという糞長い文章をノートつけながら読んでいるわけですが、そこに丁度この本が配送されて来たので気分を変えようかと読んでみたところ面白くて一気に読んでしまいました。

 本書の内容は前回読んだ『〈鬼子〉のたちの肖像』(参照)と同じく、図像学的、系譜学的にある時代に描かれた、ある対象をトレースすることで、図像や言説の上に現われる「記号」の意味と、それがいかなる背景の下に形成されたのか、そしてそこに反映される中国的文化の影響を明らかにしようとするものです。今回は文化大革命期に発行されていた『紅小兵』誌を主な観察対象として、そこにあらわれる「よいこ」像を元にその辺を探っていこうという趣向です。相変わらずですが、そんな堅いこと抜きにしても、この文革期の「よいこ」像というのが後世の人間からすればもう目茶苦茶でありまして(現代史として経験した人には大変な時代だったんでしょうが、文革当時は私は生まれてませんし、ぎりぎりで)それらを読んでいくだけでも楽しめます(ちょっとくどいけど)。ここで「よいこ」の文化大革命ぶりを紹介してもいいのですが、そこはネタバレは控えるのが良いのかもしれません。

 その目茶苦茶加減を楽しんだ後は、党の宣伝部門あたりからあるべき「よいこ」像を指令されて、目茶苦茶な「よいこ」像を作り上げていく『紅小兵』誌の「中の人」の顰め面を想像しながもう一度読み返していくのもいいでしょう。そこに文革当時の政治背景やら権力闘争相関図などを加味して読んで行けば、中国政治を読み解く上でのリテラシーの様なものも見えてくるかもしれません(結構マジで)。

 あとがきに著者曰く、「今回は『紅小兵』という為政者主導の児童書が伝えようとしたものを、いわば「真に受ける」かたちで書いてみました。その過程で、中国のこども観やこども文化について、いろいろ考えることがありましたが、いずれあらためて書きたいと思います。」とのこと。ここは本書でもその一端にでも触れて欲しかったなあ。古典で何やら意味ありげな俗謡や予言を歌うのが大方こどもってのは関係ありますかね?

 兎も角、陽気に文革期の空気を知りたい人にお勧めの一冊です。

蛇足1
 上海動物園には本書に登場した「草原の小さな英雄姉妹」像があるらしい。知ってればパンダ見に行ったときに記念写真撮ってきたのに(同じポーズで)。

蛇足2
 最近、「若者は何で怒らないんだ!」とかほざいてらっしゃるおとなの方がいらっしゃいますが、「反革命的」ということで批判されたり打倒されないことに感謝した方がいいかも知れませんよw