ヲチの流儀(改訂版「ネタとかネタ元とか」)

 情報収集の目的は、現在の状況、変化の発生を捉える「観測」を行い、その得られた情報の確度(確かさ)を推測ないしは判断し、確度の高い情報の中から何が起こっているのか、どのように変化しているかを分析し、他の情報の分析と比較、融合し、その結果として得られた「情報(インテリジェンス)」を基に、行動の決定を行う点にある。
 (中略)
 そのような時代(引用者注:冷戦時代)でも、東側の内情は公刊情報からある程度把握し、推測ができた。米中央情報局(CIA)は1947年に設立され、冷戦時代はほとんど東側、それもソ連を中心とするワルシャワ条約機構加盟諸国の動向を探るのに多大な努力を費やしてきたが、その情報の80〜95 パーセントは公刊情報から得られるといわれた。東側で出版されている新聞、雑誌、研究論文などを読み、あるいは東側のラジオやテレビ放送を聞いて、そこに盛り込まれている情報から「変化」を探り出すのである。こうした情報には、当局による政策決定などの「伝達」も含まれているが、その伝達によって実施された政策が、果たして所期の成果を挙げているのかは、こうした公刊情報の継続的な観測で微妙な変化を捉える方法により、確認あるいは推測できる場合が少なくない。

(江畑謙介『情報と国家』、講談社現代新書、2004年、18〜20 P)
 

 公刊情報は①一次、②二次、③技術的なものの三つに分類できる。最後の技術的な公刊情報とは、例えば商業目的で販売される衛星写真などを意味する。前二つは情報分類の基本であり、一次情報とは特定個人からの直接に提供される情報で、新聞記者がその事件の当事者にインタビューして得られるような情報を指す。この一次情報源としては、ジャーナリスト、コンサルタント、調査・研究員、あるいは公務員などがある。
 二次情報とは印刷物にせよ電子的なものにせよ、公刊されている文献を指し、新聞、雑誌、学術論文、政府公刊物、そしてラジオやテレビの字訳(トランスクリプト)などである。インターネットからはこれらの第二次情報が大量に、迅速に入手できるようになったが、その基本的特性として、どうしても一次情報より時間的遅れが生じる。
 二次情報には特定のサークルに属する相手だけに配布されるものもある。その種の情報の入手は他の公刊情報より難しいし、大体そのような情報が存在すること自体をしるのも容易ではない場合がある。ここから、この種の非商業的出版物(グレイ・リテラチュア)による情報は「灰色情報」とも呼ばれる。議事録やニューズレター、あるいはある種の科学技術論文などである。

(江畑謙介、上掲書、29〜30P)

 上述の引用文中にあるいわゆる一次情報、二次情報というのは、それ自体は「インフォメーション」であって、「インテリジェンス」ではない。こうした一次情報、二次情報、といったインフォメーションを分析、評価、定点的な観測の結果えられる時系列的な変化、他の情報と比較、融合、などの過程を通して加工したものがインテリジェンスとなる。そこには当然に観察者の主観も入ることになる。それゆに再現性が担保されていないインテリジェンスの信憑性には留意する必要がある。そのロジックがいかに構築されているのかトレースできない論などはナンセンスであろう。観察者は出来うる限り自身の情報源を公開し、引用元を明示する必要があるかと思う。

 中国ヲチを行う上で、一次情報に触れる機会は極めて稀なものである。政府部内の内部参考や新華社の発行する特定幹部以上が閲覧可能な内部参考消息などは、権力闘争の背景を描いた著作物(これも時の政治状況に合わせて意図的に出版されるのだが)の脚注など見るに国内外の政治状況や政策論争などにも言及されているようであるが、それらを一般人が目にする機会はほとんどない。そこで中国ヲチ者が収集、分類、整理すべき対象は二次情報が主体となる。特に我々の様なネット上の中国ヲタはそうであろう。実は公刊情報から得られるものは少なくない、とういのは上述の引用文の通りである。

 さらに中国的な政治文化の背景も、中国ヲチにおける二次情報から読み取れる情報の幅を増やしているとも言える。中国におけるマスコミ媒体は「党の口舌」であり、本来的には党の宣伝のための手段である*1特に党、党組織、地方政府の機関紙などではその特徴が色濃く現われる。それゆえに、それら機関紙の報じる情報、論調から(或いは報じない情報から)、その背景になる組織或いは実力者の政治的なスタンスを読み解くというアプローチが可能になる。党の中央宣伝部が許容する範囲であれ許容しない範囲であれ、「きわどい」情報の存在は特に何かしらの意図や背景を以て報じられている可能性が高い。そこにイデオロギー上の言語感覚や婉曲的に行われる批判、論争のリテラシーを加えると色々と見えてくるものも広がってくるのかと思う。ただし、それらの機関紙も一枚岩的に母体組織の利害を代表していると考えるのも早計の様に思う。ゆえに情報の取捨選択が重要になるかと思うが、こればかりは個人の主観が介在するところであり、それぞれの好みやセンスの問題となるのだろう。

中国に関する主な二次情報ブックマーク先など晒してみる

解放網:http://www.jfdaily.com/
BBC中文網:http://news.bbc.co.uk/chinese/trad/hi/default.stm
RFA普通話http://www.rfa.org/mandarin/
VOA中文網:http://www.voanews.com/chinese/
人民網:http://www.people.com.cn/
新浪網:http://www.sina.com.cn/
新華網:http://www.xinhua.org/
当代中国研究:http://www.chinayj.net/
南方報業網:http://www.nanfangdaily.com.cn/southnews/
南方窗:http://www.nfcmag.com/
財経:http://caijing.hexun.com/default.aspx
東方網:http://www.eastday.com/
多維新聞網:http://www5.chinesenewsnet.com/index.html
明報新聞網:http://www.mingpaonews.com/
香港文匯報:http://www.wenweipo.com/
瞭望:http://203.192.6.66/
亜洲週刊:http://www.yzzk.com/
二十一世紀網絡版:http://www.cuhk.edu.hk/ics/21c/
開放雑誌:http://www.open.com.hk/
争鳴動向網站:http://www.chengmingmag.com/
中青在線:http://www.cyol.net/node/index.htm
光明網:http://www.gmw.cn/
新世紀:http://www.ncn.org/asp/zwginfo/index.asp
大紀元http://www.epochtimes.com/b5/ncnews.htm

(順番適当。勿論、毎日全部に目を通してるわけはないw)

 ネット時代の新聞情報のあり方という点も考えてみたい。特にニュースポータルについてだが、ポータルサイトという性格上、多数のニュースが集まってくる。それにサイト管理側が全て管理できているかという点は注意する必要があるかとも思う。新華社に見学に行ったときには担当者は「国情」に合わないBBS、「論壇」への投稿などはチェックしてます、見たいことをあっけらかんと言っていたが、ニュース記事まで紙面上と同じ様な編集意図を持って取捨しているのかどうか。この辺は一考を要するところであろう。どの新聞媒体からの引用かによって確認するのが無難に思われる。

*1:同時に広告収入を財源とする商業紙の登場などによってそうした状況にも変化が現われている。