和諧社会は胡錦濤印の金太郎飴か?

 香港の『大公報』は五中全会が10月上旬の最後の幾日かに開催されると報道している(註1)。この報道は9月25日付けの『香港文匯報』の報道とも符合する(註2)。更に日本の時事通信は具体的に10月10日前後に数日に渡って開催されるとしている(註3)。

 『大公報』には続けて中央党校副校長・王偉光の発言として面白いことが書いてある。以下引用。

 「科学的発展観」は現代中国の経済社会の諸矛盾を解決するために絶対必要な基本原則であり、経済社会と人々の全面的な発展を実現するために長期に渡って堅持しなければならない指導思想である。そして、「指導的幹部の発展観念の問題を解決するのが先ず重要な任務である。」

 王偉光は幾人かの指導的幹部の頭の中には偏った意識があると批判する。ある指導的な幹部は「発展こそが道理である」というのを「経済成長だけが道理である」と曲解している。「発展は執政と国の主要な任務である」というのを「経済成長が執政と国の唯一の主要な任務である」と曲解している、「経済建設を中心とする」というのを「GDPを中心とする」と曲解している、発展の最終目的を単一の経済目標、物質目標の追求と曲解している、発展を短期の、一時的な経済成長と曲解している。

 この部分は中央党校という中共シンクタンクの副校長に当たる人が、要約すると「江沢民時代を総括すんぞ、ゴルァ!」と言っているように見える。更に中央党校というのは中共イデオロギーの聖地でもある。そして、第十一次五カ年計画の起草案策定にあたっては、この「科学的発展観」と「和諧社会」建設という胡錦濤の提唱するイデオロギーが基調として策定されるという。これは、この『大公報』の報道と前述の『香港文匯報』でも報道されているのだが、探してみたところ中国国内でもこうした線での報道が拾える。

 『新華網』の「徐才厚、何勇が国家の「第十次五カ年計画」の重要な科学技術の成果展を参観」という記事によれば、第十次五カ年計画の成果を強調するとともに、第十一次五カ年計画は全面的に小康社会を建設するために、中華民族の偉大な復興に更なる貢献をするために必要なものであると結んでいる。「小康社会」と言えば、胡錦濤のいう「科学的発展観」や「和諧社会」という文脈で多く触れられるタームである(註4)。

 また、同じく『新華網』の「十大キーワードで「第十次五カ年計画」を描写する」という記事では、訒小平理論と「三つの代表」という重要思想の指導の下で中国が発展してきたとしながら、第十一次五カ年計画の策定に向けて第十次五カ年計画を振り返る十のキーワードを紹介しているのだが、そこには「科学的発展観」、「マクロ経済調整コントロール」など、均衡的な発展という胡錦濤色彩濃厚な線で書かれている(註5)。

 第十一次五カ年計画を胡錦濤的なイデオロギーと結びつける論調の記事は、党機関紙の本丸である『人民日報』では未だ見られていないように思う。しかし、ゆっくりと外堀から埋めにかかっている雰囲気は感じる。

 一方で、地方の多くでは中央(胡温政権)の威令が及んでないのではないかという案件も多発している。特に前々から問題になっていた炭鉱経営の規制に関しては惨憺たる現状の模様(註6、参照:『日々是チナヲチ』)。SARS騒動の時には非協力的な地方への一点突破が成功したように思うが、今回の炭鉱経営の件はガチに地方の経済権益と衝突しかねないイシューだけに厳しいものがありそう。折からの原油価格の高騰を受けて石油、ガソリン不足が深刻になりつつあるという話も聞こえてきてるし。経済問題に関していえば、そもそも、マクロ調整の名の下に、経済の過熱化、過剰投資の防止を訴える胡温政権の政策は、経済成長率と大型投資による税収増によって出世のための評価(手柄)を得たい地方官には極めて不評であった。

 こうした中で胡温政権にとって良い知らせ(?)も地方から聞こえてきている。広東省が近日公布した『和諧広東の建設に関する若干の意見』という文件の中で、省党委員会、省政府が建設すべきである広東像として、「富裕、公平、活力、安康」の広東という八文字を上げている。その中の「富裕」に関するこの文章における定義というのは、「経済がスピードを持って持続的に協調的に健康な発展をすることであり、地区間、都市と農村の間の発展の格差を徐々に縮小し、全省社会の富をさらに成長させ、社会全体の成員の生活水準を普遍的に上昇させ、徐々に共同富裕を実現する。」としている(註7)。更にこの文章では、訒小平の発言を引用して「社会主義の目的はすなわち全国人民の共同富裕」としている辺りが心憎い。何かと中央に楯突く印象のあった広東省であるが、ここにきて胡錦濤の均衡発展観と近いことを言い出したというのも興味深い。この間、温家宝広東省を視察していたのと関係があるんだろうか。

 いやー綱引き激しくなってる感じ。綱自体が切れないかちょっと期待心配。

(註1)「中共五中全會研討「十一五」」『大公報』2005/09/27
http://www.takungpao.com/news/2005-9-27/MW-462159.htm
(註2)「五中全會國慶長假後召開」『香港文匯報』2005/09/25
http://www.wenweipo.com/news.phtml?cat=002CH&news_id=CH0509250013&PHPSESSID=f379a752fda239d895740f47018b57a2&PHPSESSID=49b6984e8fa81bf2057b8993c5bcd55e
(註3)「5中総会、来月10日前後で最終調整=次期5カ年計画を討議-中国」『時事通信』2005/09/27
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050927-00000019-jij-int
(註4)「徐才厚、何勇参观国家“十五”重大科技成就展」『新華網』2005/09/26
http://news.xinhuanet.com/politics/2005-09/26/content_3548349.htm
(註5)「十大关键词描绘“十五”中国」『新華網』2005/09/25
http://news.xinhuanet.com/politics/2005-09/25/content_3541006.htm
(註6)「造反官僚続出「炭鉱投資、クビになってもやめない!」」『日々是チナヲチ』2005/09/25
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/d336af67cfc3e547a035aeff6cd6cd2c
「続・炭鉱の官民癒着――地方官僚、中央への造反者相次ぐ。」『日々是チナヲチ』2005/09/27
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/c41eeb434b012b5cd28fcfc203ea1acb
(註7)「共同富裕是和谐之基 评建设和谐广东」『新華網』2005/09/26
http://news.xinhuanet.com/politics/2005-09/26/content_3547748.htm