反日デモ雑感

 昨今の中国における反日暴動であるが、五四運動が行われた5月4日に向かって盛り上がりこそすれ衰えることは無いのではないか?北京においては学生を外出禁止にしてキャンパス内に閉じ込めるといった非常手段が採られたようだが、その様な手段が何時まで可能なのか?邦人への暴行傷害といった事件が局所的に発生しつつも有り、外務省は渡航危険勧告などの措置を考慮した方がよい。

 映像を見ていると、学生がまずデモを開始するが、それに様々な人間が流入してきて、過激化、暴徒化するといった流のよう。都市部には農村からの出稼ぎ者や国有企業の低迷によって生じた失業者やレイオフ労働者のような、改革開放の恩恵から取り残されたような人々がごまんといるわけだが。そうした人々の不満の捌け口として反日デモがきっかけを与えているのだろう。

 さて、日中関係がこの様な状況に陥るに至って、中国に対して譲歩すべし、という様な論調が主にオールドリベラルあたりの論者から出てきているわけであるが、今現在優位に立ってるのは日本側だと思うのだが。中国側がウィーン条約を遵守していないのは明らかだし、日本の国連常任理事国入りに反対する国際輿論の喚起、という意味においては、多くの外信を斜め読みする限り失敗している。こうした動きに同調してるのは、中国本土と海外に在住する中国人と韓国人辺りで、まあこの国々は隣国が国際的な影響力を高めるのは喜ぶはずもないし(ドイツに反対するイタリア、インドに反対するパキスタン、ブラジルに反対するアルゼンチンと同じ構図やね)、彼らの病的で幼稚な民族主義を思うにそれに同調するのは別に不思議でもない。韓国に関して言えばその国際的な影響力は無視しても構わないので、問題の焦点は中国がどうでるかにかかる。しかしながら、常任理事国のうち米英仏露が一応ながらも日本の常任理事国入りを支持している状況において一国のみが強硬に反対できるものか?更に日本の常任理事国入りは国連加盟国の間でも広範な支持を得ていると思うが。

 経済関係の冷却化を心配する向きもあるが、日本が既に中国で獲得している経済的なプレゼンスの大きさ無視し過ぎではないか。ある統計によれば、2003年段階で対中投資における日本の構成比は9.5%で(韓国8.4%、アメリカ7.9%、台湾6.3%)、無論香港経由の投資などを考慮しなければならないが諸外国と比較しても小さくない。中国の経済成長を牽引しているのは言うまでもなく外資と私有企業部門で、日本の投資額が減少することは中国自身も望まないだろう。ましてや日本との貿易で中国国内に輸入される中間財や製造機器の重要性を鑑みれば明らかなように思う。それでも日本企業に対する風当たりが強いなら、台湾や韓国を経由したうまいやり方でも考えればよい。対中国市場においてこれら日本の戦略縦深とも言える地域と互恵的な関係を築ければそれも国益だろう。ちなみに中国が貧富の格差や失業問題などの国内問題を顕在化させないためには年率7%前後の経済成長率が必要と良く言われている。

 そして最も強調したいのは経済政策は安全保障や基本的な国家戦略といった概念の下位にあるということだ。中国はその国家戦略の必要上、日本の西南諸島方面に圧力を強め、日本のEEZ内に中国海軍の艦艇を常時遊弋させるに至っている。それが顕在化したのが東シナ海のガス田開発であり、原潜の領海侵犯だ。中国の軍事的な冒険主義を抑止するためには日米同盟を機軸として地域の安定と秩序を断固として守ることを示さねばならない。「歴史問題」が外交カードとして機能するなどと、誤ったシグナルを発するべきではないし、法と秩序を破壊する今回の様なやり方を認めるべきではない。

 反日暴動と「政冷経冷」に陥る可能性に挟まれてドツボに嵌っているのは中国なのだ。今日の反日暴動に対する中国の手並みと、日中外相会談の結果は本当に見もの。