反日デモ雑感(2)

 平日になり反日暴動は取り合えず小康状態に落ち着いた模様。しかしながら一連の反日デモが常に週末に計画されていたことからも、情勢は予断を許さない。

 町村外相の訪中に合わせ、中国側は北京では反日活動家を隔離し、学生への外出禁止等の措置により押さえ込んだが、瀋陽などの地方では依然として大規模なデモが行われた。どうも小泉首相町村外相が余りに「弱腰」とする向きもある様だが、私自身は、中国の反日行動は未だ収束したわけではないので、「謝罪と賠償を求める」という日本の立場を公式に直接伝えるという今回の外相会談にはそれなりに意義があったかと考える。これから中国で更に反日行動が行われて行くならば、日本側に更なる手札が入ってくるということもあり得る。今回、日本側が目指すべき目的は一義的には「歴史問題」カードの無効化であるかと考える。であれば、現状では待ちの姿勢で良いかと思う。旅行者や在留邦人の安全に対する手当て(渡航注意や現地法人に勤務する邦人の家族の一時帰国を促すなど)は当然必要だろうが。

以下は本当の雑感、妄想、メモ。主に中国の党内部の「権力矛盾」という観点から。

○中国内部の権力闘争の可能性?

 一連の反日行動の流れを観察して、多くの人がすでに党中央での権力闘争の可能性に触れている。対日政策を巡る路線対立というのは今回それが一気に噴出した観があるが、実は「対日新思考外交」が提起されたころから顕在化しつつあった。この時は胡錦濤に政権移譲がなされた直後ということもあり、胡錦濤江沢民(及び上海閥)との対立と捉えるのが多くの見方であった。
 中国政治の文脈の中で、大衆動員などを伴う権力闘争と言えば、文化大革命が思い起こされる。自己の正統性を主張する為のイデオロギープロパガンダ紅衛兵に見られる大衆動員など、その類似性は多い。文革期に走資派のレッテルを貼られた劉少奇紅衛兵の直接的な攻撃に遭い死亡したかの如く、日本に対して融和的とレッテルを貼られた党中央の人物が反日デモの攻撃対象になって物理的な危害が加えられる、というような事態は改革開放期の今となっては考えにくいが、中国の政治風土を考えると可能性皆無とも言えないのが何とも。
 まあ最も可能性の高い状況としては、一連の反日行動を主導している人物が「抗日」と「愛国主義」という、中国国内では異論の差し挟みようの無いイデオロギーを通じて、自己の権力基盤を拡大する一方、その権力の正統性を掌握しようとしている、という辺りが妥当な読み筋か。

胡錦濤の権力基盤の弱体化?(共青団と統一戦線部門)

 胡錦濤という人の経歴を見ると分かるが、この人の出身母体は共産党青年団である。中国政治において、ある人物がその出身母体で培われた人脈や権力基盤というのは、その人物の政治的な影響力の源泉となる。
 周知の様に今回の反日デモをデモの現場で主導しているのはネット上などで活動している反日活動家である。また尖閣諸島の領有権を主張するような団体もこれに加わっているようだ。当然、中国において政治的な言論や、政治的な活動というのは当局の管理下に措かれている。
 ところで、こうした反日諸団体というのは当局側の規制を逃れて活動している。いわば、当局公認の組織活動と言って良い。これらの組織はその活動の性格上、個人的には統一戦線部門がその背景にいるのかと推測している。というのは、こうした諸反日団体の走りである尖閣諸島の領有権を主張する団体の活動から勝手にそう推測しているのだが。この団体の活動には「領土問題」と「抗日」というイシューを媒介に、主に香港や台湾などにプロパガンダ活動を行い、またそれに共鳴する親中派の人々を組織化するという過程が見て取れる。統一戦線工作が、敵を分裂させ、分裂した敵の一方を自らに取り込むという原則の下に行われるのであれば、この団体の活動は正にこの原則に合致する。
 で、今回の反日デモの主力を成しているのは大学生などの学生グループであるが、本来こうした学校における共産党組織の中心を占めるのは共青団であるはずだ。しかしながら今回のデモでは共青団の動きが全く見えない様に思われる。前述の推測が正しいなら、学生を組織化しているのは反日団体の背景にある統一戦線部門であると考えられる。この構図を眺めていると、統一戦線部門が共青団の影響力を掘り崩している様にも見えるが、さて。ちなみに、中国政府の統一戦線を統括する組織である政治協商会議の現主席は賈慶林という人で、この人は江沢民の腹心と言われる上海閥の系列の人物なのだが・・・。
 反日デモを取材してる記者は、参加してる学生にあんた共青団に入ってる?とか聞いてみてくれないもんだろうか。

○統一戦線工作としての反日、「歴史問題」の提起

 前述した文章でも触れたが「抗日」や「歴史問題」というのは、中国語圏の人々を組織化する強力な媒介となり得る。まして中国経済の躍進著しい昨今、香港や台湾、また海外の中国人の間で大中国主義というような話にかぶれている人は少なくない。東南アジア方面などは、華僑の影響力は無視できないし、現地人を親中派に組織化するのに「歴史問題」は大いに影響力を発揮する。
 この「歴史問題」を中国側の強力なカードとして与えてきたのは、中国や韓国が認定する「歴史」を反論もせず、そのまま放置してきた日本にも問題があるのだが。この辺に関してはそのうちネタにでもしたいと思う。

気になる記事など

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050418-00000652-jij-int

http://www5.chinesenewsnet.com/MainNews/SinoNews/Mainland/2005_4_17_21_42_0_238.html 

http://tw.news.yahoo.com/050418/39/1pql4.html

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050418-00000559-jij-int

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050418-00000002-san-int