中国の民間組織(反日もあるよ)

 前回、中国泛藍連盟をネタにしたが何故か大紀元もこの事件を大プッシュ。

中共鉗制言論自由 藍聯盟總群網路遭封」『大紀元』2005/08/16
抗戰勝利日 中國大陸泛藍聯盟群緊急呼籲釋放孫不二」『大紀元』2005/08/16

 一つは大紀元の記者が取材した記事、もう一つは中国泛藍連盟の会員が作者という檄文というか、声明文というか。記事を眺めていくと、どうも前回RFAをネタ元に書いた逮捕者の文炎さんというのは、どうも孫不二さんと同一人部の模様。逮捕された所が武漢、処分が「不法結社」で十五日間の拘留というのも同じ。何故か記者相手に演説を始める肝っ玉母さんという点でも共通している。言われてみれば文炎、孫不二どっちもペンネームっぽいな。

 これまでもこの団体は「九評共産党」、「全球退党新聞」、「暴動」、「上訪」、「法輪功真相」、「国民党」、「三民主義」、「自由民主法制」など共産党がタブー視している話題をたびたびネタにしていたとのこと。また大紀元の記事によれば逮捕者のお父さんは当局に不当逮捕を抗議して「退党」したとか。なるほど、大紀元が応援するわけだ。さらに記事を眺めてみると、「国家政権転覆扇動罪」で逮捕されたもの一名、広東で謎の失踪をしたもの一名、北京で党旗を焼いて逮捕され現在に至るまで行方不明なもの一名。何か、すごい武闘派の組織なんですか、もしかして?

 この組織、台湾の国民党は関係を否定しているし(参照)、法輪功との関係も不明。今のところ、たまたま「九評共産党」と「退党」向けの事件が起こったのに関連して大紀元が取り上げていると考えるほうが自然だとは思うが。まあ、大陸で三民主義とか、国民党とか言ってる時点で意味不明ではある。孫不二は孫文を崇拝しているとのことだが、あるいは共産党専制に嫌気がさした人が、そっちに流れることもあるということを示しているのだろうか?

 こうしたネット上の反日組織(まあそれに限らないのだが)を類別してみると二種類に分類されるかと思う。従来型の実態を伴う組織を持ち活動を行う御用民間組織。代表例を挙げれば「中国民間保釣連合会」などが考えられる。中国の憲法では何かの冗談だと思われるかもしれないが結社の自由が認められている。まあそこはそれ、全体主義国家であるから、当然にそこには仕掛けがある。「社会団体登記管理条例」という法律があって、全ての民間組織は当局への登記と事前審査が求められている。以前にこの法律を逆手にとって、「中国民主党」の名前で登記申請した猛者がいたらしいが、当然に却下された。そんなもん申請されて窓口の人もさぞ驚愕しただろう。何が言いたかというと、政治的な活動を行う組織であれば民間組織の看板を掲げていても、当然に当局の影響下にあるということだ。実のところこの保中国民間釣連合会が「社会団体登記管理条例」の登記団体かは知らないのだが、あれだけおおっぴらに活動しているのだから「不法結社」ではないのだろう。この団体については個人的に統一戦線部門との関係を疑っている。ちなみに今回逮捕された中国泛藍連盟の人は「不法結社」がその罪名であったが、それは前述の「社会団体登記管理条例」に抵触したものと考えられる。

 第二の分類としては、実態を伴う組織なり活動は行わない、ネット上での活動を主とする組織が考えられる。この分類の中にも政治的意図を持って当局公認の組織と、当局の影響下にない自発的な組織の二つがあるかと思う。前者の場合、その性格や役割というのは前述の従来型組織と変わることがないので特に注目に値するものではない。無論、反日暴動時に見られた新たなコミュニケーションツールの持つ動員力という点で、従来型組織と異なる新たな側面を軽視し得ないが。一方で、ネット上で当局の影響下にない政治的な組織が生まれてきているとすれば画期的なことであり注目に値する。今度の中国泛藍連盟の騒ぎを見るに、この組織はどうも当局の影響下にないように思われる。大紀元の記事ゆえその背景に注意する必要があるが、党旗を焼いたり、三民主義だの中国国民党だの斜め上の方向性を持つ組織が当局の影響下にあるとは考え難い。ネットの盛行は中共の統制が及ばない社会領域を生み出しつつある。最もその多くが今のところ反日、抗日という可燃性の高いイシューを軸に回っていて、現体制への批判という方向ではどうなのよ?という話であるが。

 話をマクロな視点に持っていく。中国を分析する枠組みとして国家-社会関係という見方がある。国家と社会という二分法を以って、中国は中共による党-国家体制という国家が社会を覆い尽くす体制にあり、社会は自律的ではなく、全体主義的な社会であると規定する。これが改革開放以降、市場経済の原理の導入により、国家が社会を全面領導するという党-国家体制に如何なる影響を与えているのか?というのが、この分析枠組みを用いる人の中心テーマかと思う。自律的な社会ということで言えば、西側的な市民社会が想起される。市民社会のメルクマールとしては、国家の統制を受けないメディア、自律的な社会団体、多元的な価値の共存などが考えられる。無論、こうした社会が中国に現出しつつあるとするのは早計だが、党-国家体制が改革開放以降の多元化傾向により弛緩しつつあるのは確かだ。そして、現代中国において噴出している多くの矛盾がこの国家と社会の境界面で起きているのも事実である。だからこそ胡錦濤は「保先運動」を提起したり、北朝鮮型の政治を賞賛して見せたりするのだろう。党-国家体制の綻びは中国共産党の綻びであり、現体制の綻びである。当局のネットに対する規制も強まっているが、どうなりますか?