広東省番禺魚窩頭鎮大石村の事件に関する追記

 事実誤認があったのでその訂正から。大石村の村民が座り込みを決行したのは魚窩頭鎮政府ではなく番禺区民政局である模様です。この点に関して前回の文章を訂正しました。更に後半部分事実関係が曖昧なのと9月1日早朝に座り込みをしていた村民が本格的に当局から排除されたとの報道がありましたのでその辺を加筆します。シラフの時に文章を見直さないと駄目です、やっぱり。

 衝突のあった8月16日から一週間後の23日、衝突時に逮捕されたうちの四名が釈放された。一方で村民側に立った弁護士などの法律家たちは当局と折衝を重ねるが行き詰まりを見せる。魚窩頭鎮党委の副書記、番禺区司法科長などが窓口となったようだが、鎮党委副書記などは露骨に圧力と取れるような態度に出ている。そこで彼らは番禺区の上級に位置する広州市当局へと働きかける戦術を採った。こういう場合、直接の利害関係にない上級政府なり党委まで話を持っていくとそれなりに有効な反応が返ってくる場合がある。一方で、この事件を報道した報道機関は『南方農民報』、『South China Morning Post』、『新唐人電視台』、『Voice of America』、『Radio Free Asia』、『台湾中央広播電台』、『AFP通信』、『AP通信』、また『Knight Ridder Newspapers』、『The NewYork Times』、『Washington Post』が関心を持っているという(註1)。よくも宣伝したものである。

 しかしながらこうした活動は功を奏することなく、7月下旬に提出した村民委員会主任罷免動議は8月29日に番禺区民政局によって正式に拒否された。村民側の法律家は、行政手続を続けるか番禺区民政局を告訴することを勧めたようだが、村民は数ヶ月を要するそのような方法を採っていたのでは、物理的に村民側が村の財務室を魚窩頭鎮当局から守りきるのは不可能だと判断した(註2)。8月31日に百名近い番禺区民政局の門前に座り込みを始め、そのうちの八十名ほどがハンガーストライキを始めた。同日、午前八時には番禺区政府の職員が出所し終えると百名近い武装警察が派遣され、座り込みをするこの座り込みに参加していた馮偉南ほか三名を逮捕した(註3)。尚、この現場では『South China Morning Post』紙の記者が取材していた模様(註4)。逮捕者を出しながらも座り込みを続行して一夜明かした村民たちだが、9月1日早朝五時に武装警察が番禺区政府から排除して数十名を拘束したとのこと。正午までに大部分が釈放されたようだが、先に逮捕された馮偉南ら三名は未だに拘束されているという。現在、番禺区政府付近は武装警察が村民が再び座り込みなど始めないように警備している。村民側は馮偉南らの釈放を求めるととももに徹底的に戦うとしており(註5)、今後の展開が注目される。

 さて、前回は海外のマスコミの目もあるしあんまり無茶はしないだろうと考えていたのだが、あっけなくその予想が外れた。そういう無茶をやってのけるのが中国であり、そこにシビレる(以下略)。しかしながら胡錦濤主席の訪米を前にして、北京でも人権活動家逮捕するは、今回は今回でまた騒ぎになりそうだは、大丈夫なのだろうか。現在のワシントン辺りの中国に対する温度というのはかなり薄ら寒いものがあるのだが。

 それにしても村民側のまったく合法的と思われる訴えが通らないというのも、これでは集団抗争事件が減らないどころか増加していくわけだと思えてくる。一方で馮偉南に代表される「農民領袖」や、それを支援する郭飛雄のような「農民利益代弁人」の動きは非常に興味深い。こうした人々の活動が集団抗争事件をより組織的に大規模なものにしているのは間違いないように思う。こうした傾向は1990年代後半から見られたが、最近は目に見えて増加している。権利意識に目覚めつつある農民がどこへ向かうのか?ワクワクテカテカですな。

(註1)郭飛雄「郭飛雄『太石村事件最新进展』」『新世紀』2005/08/26
http://www.ncn.org/asp/zwginfo/da-KAY.asp?ID=65509&ad=8/26/2005
(註2)「太石村村民绝食声明:冯秋盛、梁树生被抓走」『新世紀』2005/08/31
http://www.ncn.org/asp/zwginfo/da-KAY.asp?ID=65570&ad=8/31/2005
(註3)「太石村村民再次抗議當局拒絕解散村委會重選」『自由亜洲電台』2005/08/31
http://www.rfa.org/cantonese/xinwen/2005/08/31/china_rights/
(註4)呂邦列「太石村村民绝食现场记录 ――甘地非暴力主义重现在中国农民身上」『新世紀』2005/09/01
(註5)「廣東番禺公安驅趕絕食抗議的太石村民」『自由亜洲電台』2005/09/01
http://www.rfa.org/cantonese/xinwen/2005/09/01/china_rights_taishi/