中国の潜水艦で火災事故

 中国の潜水艦が火災を起こして海南島に曳航されているとの報道がある。事故を起こした海域が台湾と海南島の中間辺りということで、台湾のマスコミも敏感に反応している。まずは第一報を報じた読売の記事を引用する。

『読売新聞』「中国潜水艦、南シナ海で火災か…海南島へ曳航」(2005年5月31日3時7分 )

 中国海軍の潜水艦が南シナ海で潜航中に事故を起こして航行不能となっていることが30日、明らかになった。

 日米両国の防衛筋が確認したもので、艦内で火災が起きた可能性が高く、同日午後現在は浮上して中国・海南島に向けて曳航(えいこう)されている。死傷者の有無などは不明という。

 同筋によると、事故を起こしたのは、中国海軍所属の「明」級のディーゼル式攻撃型潜水艦で、300番台の艦番号がつけられている。

 日米両政府は「原子力潜水艦ではなく、通常艦であり、周囲への影響は少ない」と見ており、在日米軍自衛隊は通常の態勢で監視を続けている。

 事故が起きたのは26日ごろで、台湾と中国・海南島の中間あたりの公海で潜航している時に発生した模様だ。浮上した後、中国海軍の曳船などに曳航されており、目的地は海南島の楡林(ゆりん)海軍基地と見られている。潜水艦が自力で浮上したかどうかは分かっていない。現場周辺には中国海軍の軍艦3〓4隻が確認されているほか、別の潜水艦もいたとされ、共同訓練を行っていた可能性があるという。

 2003年には、今回と同じ中国海軍の「明」級潜水艦「361号」が、黄海で訓練中に「機械故障による事故」を起こし、70人の乗組員ら全員が死亡している。正式な事故原因は公表されていないが、艦内の酸素が急激に減ったことが理由だったとされている。

 今回事故があった海域は、南沙諸島などの南シナ海領有権問題や台湾防衛の観点から、中国にとって重要な戦略的拠点とされている。

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 読売の報道を受けて台湾のマスコミもこの事件を報じている。次に引用するのは台湾の中央社による記事。記事の頭の方には、読売の記事を引用して事故の概要と、日米当局が既にこの情報を掴んでいるとなどの事実関係を報じたもである。記事は続いて読売よりも詳細な中国海軍の潜水艦事情などを書いているので引用してみる。

『蕃薯藤新聞』「明級為中國主力常規動力潛艇」中央社記者張謙台北三十一日電)

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 中国の北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊はすでにより先進的な原子力潜水艦を配備しているが、各艦隊は未だに明級を潜水艦の主力としている。

 北海艦隊を例に取ると、資料によれば、北海艦隊は明級〓型と改良型を十三隻擁している。
東海艦隊は二隻の漢級攻撃型原子力潜水艦、四隻のキロ級通常動力型潜水艦宋級通常動力型潜水艦、更に十二隻の明級潜水艦を擁している。

 南海艦隊は漢級攻撃型原子力潜水艦二隻、夏級一隻、明級通常動力型潜水艦六隻、宋級一隻を擁している。

 いくつかの軍事に関する文献が指摘しいるが、中国海軍の潜水艦の内、最も多いのが033型と035型である。033型は五十年代に中国がソ連から引き渡された633型攻撃型通常潜水艦をもとに製造した型番で、この同型艦は現在三十七隻がまだ現役である。

 035型は033型潜水艦を基礎に改良設計されたもので、中国が自ら設計した初めての攻撃型通常潜水艦である。

 文献によると、033型と比較すると、035型の最も大きな改良点は航行自動操舵儀と深度自動操舵儀を装備したことで、これによりあらゆる航行速度の範囲内で安定した操縦せいを確保したという。

 035型は改良型非常に多く、最新型には35Gがある。2000年以降、中国海軍は全ての035型潜水艦の改良を進め、消音タイルを追加装備して、部分的に早期に就役したものについては技術向上を図り、文献に拠れば、90年代に建造されたもの次ぐ装備に達している。
 
 035型は約二十一隻が建造され、その中には2003年の事故を起こした361艦も含まれ、現在、多数が海軍で就役している。

 つうか、中国海軍潜水艦大杉。海軍内部での空母派と潜水艦派の路線対立では、潜水艦派勝利したらしいが、旧式とは言えこれだけの数の潜水艦を揃えられると、中国の外洋進出の意気込みを感じざるを得ない。

 次の記事は台湾当局もこの事故に関して情報を掌握しているという記事。記事の中に中国海軍が通常動力潜水艦のAIP動力化実験を進めているという興味深い記事もあったのでついでに引用してみた。

『蕃薯藤新聞』「中國明級潛艦南海失火 國防部:全程掌握」中央社記者林沂鋒台北三十一日電)

 国防部の軍事スポークスマン劉志堅は今日会見してして、国防部は中国大陸の明級潜水艦の火災の情勢の全容を掌握している、また詳細に事故原因を了解していると述べた。

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 明級潜水艦が事故を起こしたのは今回が初めてではない、民国九十二年(訳注:2003年)、中国大陸の北海艦隊に所属する361号明級潜水艦が山東半島海域で事故を起こし、艦内の70名の艦員すべてが死亡した。資料によると、中国は明級潜水艦に潜水時間を延長する為の、AIP推進動力系統の実験を進めているとされる。

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 この事故の報道を受けての中国の反応などは以下の記事にある。現在のところ、中国側の公式見解は「訓練」というものである。また、記事中には2003年の事故時に海軍で大規模な人事異動と行政処分などが行われたと紹介。今回、中国側は今のところ「訓練」としているが、或いは海軍で何がしかの人事ネタがあるかも知れない。これが事故であると確定した場合、2003年時のような大規模な人事異動や行政処分というのを党中央は行えるだろうか?昨今、胡錦濤指導部と軍部内の強硬派グループとの確執というような情報も一部に出てきており(参照)、この事を受けて胡錦濤が軍に対してどの様に対応していくかで、彼の軍部に対する指導力を評価する一つの指標になもなりそうだ。

『蕃薯藤新聞』「傳潛艇失火 中國稱是應急訓練」中央社台北三十一日電)

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 孔泉は今日午後中国外交部の定例記者会見で関連する質問を受けて、これは中国海軍の組織する応急訓練だ、と応えるのに止まった。

 2003年5月、中共北海艦隊の361号明級潜水艦は、渤海黄海に近い内長山列島より東の海域で訓練中に事故を起こし、艦に乗り組んでいた70名の将兵全てが遭難した。これは中共海軍の歴史上、最も深刻な潜水艦事故である。

 新華網によると、361潜水艦の事故の原因は指揮操作が適切ではなかったためであり、これにより北海艦隊の司令官など海軍の官員が処分にあった。

 処分を受けた中には、済南軍区副司令官兼北海艦隊司令官丁一平、北海艦隊政治委員陳先鋒を含み、行政降格処分を受けている。北海艦隊司令官は張展南が引継ぎ、政治委員は鄔華陽が引き継いだ。後に鄔華陽は海軍副政治委員に承認している。

 中共はまた更に海軍上層指導部の異動を行い、張定発を海軍司令官に任命、胡彦林を海軍政治委員、石雲生の海軍司令官の職務と楊懐慶の政治委員の職務を解いた。外部では一般的に361潜水艦の事故と関係していると解釈されている。

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