紅い資本主義の行方はどっちだ?

興梠一郎、『中国激流―13億のゆくえ』、岩波書店、2005年

中国激流―13億のゆくえ (岩波新書 新赤版 (959))

 2005年7月20日に第1刷が発行されて、2006年1月16日には既に第6刷発行となっている。新聞や雑誌などのマスメディアに載る多くの中国情報が物足りない昨今(無論、良質の情報もあるけど)、この本の様な良著が数多く売れているらしいことは素直に喜べる。昨年の今頃起きた反日暴動をきっかけに、マスメディアを眺めてるだけでは感得できない、「中国の今」に関心が集まっているという現われであろうか。

 さて本書の内容であるが、改革開放と市場経済化によって齎された光の部分が経済成長であるならば、その陰の部分である社会問題や経済問題を取り上げている。その範囲は、農村問題、土地徴用問題、腐敗問題、不良債権問題、格差の問題、政治体制改革の問題、など幅広い。具体的な事例をもって紹介されているそうした問題に通低しているのは、これらの問題は、実は全ての権力、国家機関、社会団体を支配する共産党一党独裁体制の弊害であり、また中国国内での「改革」とは何かということ巡る論争でもある(終章、激流のなかへ、に詳しい)。「新自由主義者」と「新左派」の論争を引き起こす改革の矛盾が現在の中国社会では表面化してきているのである。

 市場経済社会主義体制の遺制の双軌制の下、或いは市場経済と如何なる監視も監督も受けない専制的な政治体制の下で、中国の市場経済が実は政府の強い介入を伴う(往々にそれは腐敗と同義である)歪な市場経済であると強調する。著者は多くの社会矛盾、経済問題の根本原因が共産党の党=国家体制に基づく専制独裁政治にあると喝破する。本書にも書かれているが、それは一部の中国人知識人の見解とも共通するものである。こうした状況下で「奇跡の高度成長」を遂げながら、市場・金融開放の衝撃と格差の拡大が原因で危機が発生した南米諸国を教訓に、中国のラテンアメリカ化という議論も出てきているのである。

 世間で喧伝される楽観的な中国経済発展論と、願望混じりの中国経済崩壊論という極論に依ることなく、豊富な事例に基づいて中国経済の直面する問題を取り上げた良著である。先にこのblogでも取り上げた皇甫平のエッセイ(参照)と合わせて読むと中々に趣き深いものがあった。

 ちなみに経済のさっぱり分からない私でも楽しく読めたので、経済オンチの方にもお薦めです。